語感による科学的名づけ

”言語の脳科学”著者酒井邦嘉先生への手紙

 

  ”言語の脳科学”著者酒井邦嘉先生への手紙  

酒井邦嘉先生

 [言語の脳科学]読ませていただきました。
ことばの音の響きのイメージを分析するビジネスを展開している関係から言語学の勉強を始めました。チョムスキーの考え方に惹かれるものの、なかなか手を出せずにいました。先生のこのご本の噂を目にし、アマゾンで取り寄せ読ませていただきました。
 大変明解でわかりやすく、すんなり頭に入りました。ただ、2点疑問に感じるところがありましたので、このメールをさせていただきます。

(1) P102
[ ・・・単語と意味との関係は恣意的であって、そこに必然的な法則性は存在しない・・・ ]、そして、P51[単語と意味のつながりは連想に基づくものであって、その連想関係は偶然的である。]とありますが、連想の背景に関係性(ゆるい法則性)があれば、恣意的とはいえないのではないでしょうか。
少なくとも日本語、特にやまとことばの単語の音の響きの持つイメージと、その単語の意味には相関性があります。中でも日本語のオノマトペはイメージそのものです。そして、やまとことばには、オノマトペから転じたと思われる単語が数多く残っていますし、イメージから作られたと思われる単語も非常に多く残っています。
本来、ことばの音の響きのもつイメージ(語感)と意味の間には法則性(文法)があるのではないでしょうか。語感による納得性があるから新しい単語もすぐ覚えられる。新しく出来た言葉も納得性があれば生き残り次世代へと引き継がれる。この納得性を音韻律とでもすれば、これも生成文法の一部になるのではないでしょうか。音韻論のサブ・モジュールとしてイメージ論が必要なのではないかと思います。

 ことばの音の響きのもつイメージ、すなわち語感は、そのことばの発音体感(ことばを発声したときの口腔内体感)に由来するとの仮説を我々はたてています。この体感には、一つの音韻を発声したときに、口はどうするか、舌はどうするか、息はどうするかなどの主体的体感と、その結果として、息がさわやかに流れるとか、破裂するなどの客観的体感を含みますが、基本は物理現象ですので、客観化、数値化することが出来ます。
 この体感は自転車の運転と同じように無意識化されているため意識上に戻しにくくなっていますが、一度覚えると自転車に乗れるのと同じように、意識下で常に有効に働いていると思われます。

 特に若い女性はこの語感にも敏感ですが、中高年、特に高学歴の男性は意識上に戻せなくなっている傾向があります。
 ソシュールも分からなくなっていたのではないでしょうか。
ソクラテスは十分分かっていたようです。(プラトン全集2 クラテュロス P131,132他)

(2) P235
[日本人が右脳で虫の音を聞くことなどが証明されたことはないし、・・・]とおっしゃっていますが、これは[日本人の脳](角田忠信・東京医科歯科大学聴覚疾患研究部門教授)のことでしょうか。もしそうなら、この引用は誤りです。角田先生は[日本人では・・・昆虫・小鳥などの啼き声に対して言語半球が優位であることが確かめられた。](P76)と言っておられるのです。そして、これに対し、欧米人は虫の音は劣位脳で処理しているとの実験結果も出しておられます。

 私は、語感を研究している者として、日本人と欧米人のこの違いはありうることだと感じています。ただ、角田先生の実験(keytappingによるDelayed Auditory Feedback効果を使ったもの)が判定に熟練を要するため学界で認められなかったのは非常に残念だと思っています。
先生のこのご本にもよく似た実験の例が出てきます。両耳分離試験(P292)などで是非再検していただけないでしょうか。世界に先駆けた日本人の研究が埋もれてしまうのは残念です。

 日本人は、日本人の特殊性を言明するのを非常に恐れます。しかし、これは日本人の独りよがりです。世界では通用しません。語感の影響を色濃く残している日本語を使い続けている日本人。それとも関係があるかもしれませんが、単母音を言語として聞く日本人。これらの特殊性を活かして言語学に新しい分野を切り開くことができるのではないでしょうか。チョムスキーの考え方をより深めることができるのではないでしょうか。

 私の疑問がトンチンカンなものであればご容赦ください。
 浅学ではありますが、私個人の考え方は私のホーム・ページで説明しています。その内容を含めご批判いただければ幸いです。
           www.gokanbunseki.com
                              平成20年5月7日
                                          増田嗣郎

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